なぜ東京都のCOVID-19重症基準は独自基準なのか

確かにこの基準の差は気になりますよね。

その理由ですが、昨年2020年の8月20日に開催された第7回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議にて、国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫氏と福祉保健局長による説明がありました。

長文ですが、以下の議事録から引用します(PDF)。 https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/011/435/7kai/20200820.pdf

なお、会議の資料「重症基準について」は以下のURLでダウンロードできます(PDF)。 https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/011/435/7kai/202008207.pdf

【危機管理監】

 それでは、第7回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議を開始いたします。

《略》

 それでは早速ですが、「感染状況・医療提供体制の分析」につきまして、大曲先生からご説明をお願いいたします。

 

【大曲先生】

 国際医療研究センターの大曲と申します。  8月19日時点の感染状況・医療提供体制の分析結果をご報告いたします。

《略》

 コメントは以上でありますが、一つ、この時間をいただきまして、モニタリング指標について少し解説をしたいと思います。

 モニタリングの指標で医療提供体制を示す中で、重症患者数がございます。こちらについては、モニタリングの過程、モニタリングの指標としてどのように選ばれて、使われているかということを、専門家としてご説明をしておきたいと思います。

 東京都においては、重症の病床を戦略的に把握して運用するために、人工呼吸器、体外式心肺補助、ECMOでありますが、その管理下にある患者数、これを重症患者数として、このモニタリング指標として、専門家が見ながら活用をしています。

 この数値をあえて選んだのは、理由がございます。

 この数値は、実は、使い始めたのは4月頃の話であります。その頃は、思い起こすに、都の全体の医療の状況を見渡す中で、どこに本当に重症の患者さんがいらっしゃるのか、それが何人いらっしゃるのか、その1人当たりにどれぐらいのリソース、具体的に言えば人工呼吸器であり、ECMOでありますけれども、それがどれぐらい都の中で使われているのかということが、なかなか見えにくいと思っておりました。その中で、ちゃんと見える指標をということで探してきたのが、編み出したのが今回の重症患者数であります。

 理由でありますけども、病院によって集中治療室、ICUですね、ここにいつ入っていただくのか、あるいはいつ出ていただくのかという基準があるわけですけれども、この基準は、病院の状況によって様々であります。

 ただ、病院ごとでICUの入室や退室の基準が異なっていても、人工呼吸管理を行う、あるいはECMOを導入するというのは、医師や病院による判断の差が生じにくいと考えています。そこで、これらは共通の基準で、重症患者数を数えられてトレンドを知ることができると考えております。客観性が高いというところですね。

 重症化リスクの高い患者もICUで管理する病院があります。あるいは流行拡大によって、ICUやHCUをコロナの患者さんの専用とする病院もございます。ですので、必ずしもICUに入院した患者さんが、重症患者とは限らないという事例もあります。具体的には、ICUには入っていらっしゃいますけれども、人工呼吸はしていないですとか、ICUが入っているけれども、ECMOは使っていないという患者さんも現実にはおられます。ということで、人工呼吸器の管理を必要としないICU入室患者を含めないことで、何をモニタリングしているか明確になります。

 ここは私の補足でありますが、現実の医療の場では、必ずしもICUには入っていないけれども、人工呼吸を受けているという患者さんも現実にはおられますし、そういう方々もやはり我々としては重症と考えていますので、そうした方々は、人工呼吸器なり、あるいはECMOなりが装着されているので、我々東京都のモニタリングの指標としては、重症とカウントしております。

 人工呼吸器管理をするということは、人工呼吸器などの資機材、あるいは診療ケアに当たる医師や看護師だけでなく、人工呼吸の呼吸器の管理に当たる臨床工学技士などの人員も必要とします。要は、様々なリソースが必要で、これは医療提供体制の明らかな負担となります。ですので、人工呼吸器管理開始ということは、医療提供体制への負担の大きさの目安として、私たちはわかりやすいと考えています。また、もう一つ大事なのは、患者さんが回復すれば人工呼吸器管理はしなくなるわけです。ですので、人工呼吸器管理の数を数えていけば、患者さんの回復に伴って、資機材や人員等のリソースの再利用についても、把握がしやすいと考えています。

 都では、人工呼吸器の管理をいつ始めたのか、それはいつ終わったのか、ECMOをいつから使い始めたのか、ECMOをいつまで使っていたのかという期間を把握しています。その期間を知ることができます。また、人工呼吸器やECMOから外れましたと、そういう報告を受けることで、患者さんが、客観的に見ても明らかに回復傾向となっていることが把握できますという形で、都のモニタリング指標としての重症患者数の把握は行われて参りました。

 なお、厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症患者の療養状況等に関する調査が行われております。こちらでは、ICU等での管理、人工呼吸器管理又はECMOによる管理が必要な患者さんの数を、重症患者数として報告するよう、厚生労働省より、各都道府県に依頼がなされています。

 東京都としては、ICU等での管理状況についても合わせて、厚生労働省に報告することとしていると伺っております。

 長くなりましたが、私からの報告は以上でございます。

 

【危機管理監】

 大曲先生ありがとうございました。

 以上の重症患者数の考え方についてのコメントを今、先生からいただきましたけれども、それを受ける形で、資料を1枚おめくりください。

 「重症基準について」ということで、都の方の考え方を、福祉保健局長からお願いいたします。

 

【福祉保健局長】

 資料をご覧ください。

 今、大曲先生の方からご説明があった通り、都では現在、人工呼吸管理又はECMOを使用している患者さんを重症患者さんというふうに位置付けております。

 これはですね、4月26日までは、保健所を通じてICU、人工呼吸管理、ECMOの患者さんを聞き取って数を集計しておりましたが、その頃に合わせて、今、大曲先生からあった通り、専門家の先生方から、ICUをカウントすることは実態に即してない部分があるというご意見もいただきました。

 また、保健所を通じて情報を取ることが、なかなか正確な数値が取りにくいという面もありましたことから、専門家の意見や、現場の実態を反映しているという基準であるという考え方から、人工呼吸管理またはECMOを使用している患者さんを重症患者という位置付けで、4月27日から開始しているところでございます。

 この基準については、今後も変更なしということで、モニタリング指標として引き続き戦略的に活用していく考えでございます。

 また、ホームページ等の公開情報についても、この数値を用いることといたします。

 理由については今、大曲先生からございましたので、省かせていただきますが、今般厚労省から集中治療室、ICU等での管理が必要な患者についても、含めて報告するよう依頼がございましたので、依頼に基づいた患者数を参考値として提出することといたします。

 私からは以上でございます。

 

【危機管理監】

 ありがとうございました。

感想

独自基準の妥当性については特に意見するほどの知見はないのですが、モニタリング会議の議事録が各回公開されているのは大変素晴らしいですね。今後も続けていただければありがたいです。

www.bousai.metro.tokyo.lg.jp